大判例

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東京地方裁判所 昭和60年(ヨ)2318号

申請人

株式会社月めん

右代表者代表取締役

荒巻洋

右訴訟代理人弁護士

茅根煕和

春原誠

被申請人

総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部

右代表者支部長

浜田昭雄

被申請人

総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部月めん労働組合

右代表者執行委員長

佐藤忠夫

右被申請人ら訴訟代理人弁護士

藍谷邦雄

吉田健

高橋諒

主文

本件申請を却下する。

手続費用は申請人の負担とする。

理由

第一当事者の申立

一  申請人

1  被申請人らはその組合員又は第三者をして、申請人及び申請人から委任を受けた第三者が別紙目録(二)、(三)及び(四)記載の建物及びその敷地において行う工場移転作業並びに工場改修工事を妨害せしめてはならない。

2  東京地方裁判所執行官は申請人の委任に基づき申請人及び申請人から委任をうけた第三者が前項の行為をする場合にはこれに立会い、被申請人らが前項に違反した場合にはこれを排除しなくてはならない。

二  被申請人ら

主文と同旨。

第二当裁判所の判断

一  事実認定

疎明資料によると、次の各事実が一応認められる。

1  当事者

申請人は、冷凍食品、中華麺の製造、販売等を目的とする資本金一億円の株式会社である。

被申請人総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部は、主に東京都南部地域の会社、事業所に雇用される労働者で組織される労働組合である。

被申請人総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部月めん労働組合は、申請人の従業員(パートタイマーを含む)で組織される労働組合で、組合員数は約五〇名である。

2  群馬県への工場移転計画

申請人は、従来別紙物件目録(一)の建物(以下「本社工場」という)に本社と工場を置いていたほか、同目録(二)の建物(以下「大崎工場」という)に冷凍食品の専門工場を、同目録(三)の建物(以下「上池台工場」という)に包装冷凍ライン工場を有している。

申請人は、群馬県佐波郡境町に工場を移転することを計画し、昭和六〇年四月二二日(以下、年を記載しない場合にはすべて昭和六〇年を指す。)には、その用地を取得した。しかし、申請人は、被申請人らと協議した結果、右計画を断念し、同月三〇日には被申請人らと「覚え書き」を取交し、「申請人は、当分の間工場移転を行なわない。現在の業績では移転の理由がなく、従って現時点での移転を中止する。業績が向上し移転の必要を認めたときは、被申請人らに移転計画を提案し充分協議する。」旨合意した。

3  今回の本社工場移転計画

申請人においては、昭和五八年ころから重点を置き始めた一般市販用商品の売上げがこれまで着実に伸びており、今後もその売上げ急増が見込まれる。しかし、本社工場は、地上一〇階だが各階のフロアーは約一二二平方メートルと狭く、フロアー巾も一一・五メートルしかない。そのため製品を一貫して製造するラインが組めず非能率的生産を行っていた。例をあげると、麺の製造とスープの製造は本社工場で行っているが、その包装、凍結は上池台工場と大崎工場で行っているといった具合である。また、フロアーが狭いため生産能力の高い設備を導入できず、冷凍庫も小さく、かかる状況では到底今後増大が予想される需要に応えることはできない。そこで、申請人は、生産能力の高い新設備を導入し一貫生産を行うため本社工場を全面的に移転することを計画した。

申請人は、このような計画の下に検討していたところ、たまたま発見した別紙物件目録(四)の建物(以下「六郷工場」という)が移転先として適当であると判断し、早速七月九日、これを一〇月二〇日から期間三年の約定で賃借した。そして、申請人は、次のとおり移転計画を具体化した。すなわち、本社工場は管理、事務部門を除きすべて六郷工場に移転する。大崎工場からは、炒麺製造設備、大森式自動包装機、結束機を六郷工場に移設し、それに伴い大幅な改修工事を行うこととし、上池台工場からは手もみ機械のヘッド部分を六郷工場に移設する。本社工場の管理、事務部門は、九月三〇日に賃借した別紙物件目録(五)の建物(以下「西五反田ビル」という)へ移転する。本社工場は売却することとし、その売却代金は約四億円と見込まれるので、これを、申請人の借入金約一億五〇〇〇万円、六郷工場の新設設備約二億円、テレビコマーシャルの製作費約一億円などの経費に充てる、というものであった。

4  工場移転をめぐる当事者間の交渉

申請人は、前記2のとおり被申請人らと「覚え書き」を締結していたにもかかわらず、それは一般的なものではなく群馬県への工場移転のみに関するものであるとの解釈の下に、右移転計画について、事前に被申請人らと協議することはなかった。

そして、申請人は、七月二四日に至って、いきなり全従業員に対して、工場移転を発表し、移転の目的や場所など移転計画の概要を発表した。

被申請人らは、これに抗議し、同月二六日、二七日の両日をはじめ数回にわたって、申請人と団体交渉を行い、八月一四日には東京都地方労働委員会に不当労働行為救済申立てをし、同委員会においても、当事者間で交渉がもたれた。被申請人らは、一〇月一二日の団体交渉において、申請人に対し、第一に工場移転について事前に被申請人らと協議しなかったことを申請人が謝罪すること、第二に、六郷工場を新設すること自体には反対しないが、既存の工場を閉鎖しないこと、第三に、新工場への配置転換については、事前に被申請人らと協議すること、を要求した。申請人は、同月一四日、右要求を拒否し、交渉は事実上決裂した。

5  工場移転に対する被申請人らの対応

この間、被申請人らは、工場移転に反対する旨のビラを作成し、これを、本社工場に貼付したり、最寄駅で一般通行人に配付したり、申請人の取引先に送付するなどしての反対闘争を行い、九月二六日からはストライキを行っている。

申請人は、一〇月八日午前八時五〇分ころ、大崎工場にトラックを入れ、同工場の機械を六郷工場へ搬出しようとしたが、被申請人らの妨害に遇い、これを断念した。

被申請人らは、その後も申請人による一方的な工場移転行為に対しては、実力でこれを阻止する態度を示していた。

6  本件申請とその後の状況

申請人は、一〇月一二日、当裁判所に対して、既存の三工場のほか六郷工場及び西五反田ビルにおける工場移転作業及び工場改修工事に対する妨害禁止を求める旨の本件申請を行った。申請人は、この申請に当たって、保全の必要性として、「工場の移転を早急に完了させないと製品の在庫がなくなり欠品が生ずるおそれがあり、また、賃貸人より六郷工場の賃貸借契約が解除される可能性もある。さらに被申請人らの妨害行為が続けば、本社工場の売却代金を諸経費に充てることができず、それが申請人の経営を著しく圧迫することは明らかであり、工場の移転が遅れることにより、申請人が倒産に追い込まれることもなしとは言えない。」と主張した。

その後、申請人は、一〇月二四日及び二八日の両日、本社工場から六郷工場及び西五反田ビルへの移転作業を行って、これが完了したため、本件申請のうち、本社工場及び西五反田ビルにおける妨害禁止を求める部分を取下げた。また、申請人は、同日、本社工場とその敷地を他へ売却し、移転登記を経由した。

被申請人らは、現在、本社工場の移転完了により、大崎、上池台及び六郷の三工場における工場移転作業や工場改修工事を実力で阻止しなければならない状況はなくなったとし、右作業等に対しては、引き続き言論による抗議行動は行うが、実力による妨害行動は行わないとの態度を表明している。

二  判断

工場や事業所を移転するか否か自体は、本来、使用者が独自に判断して実行し得ることがある。ただ、これらに伴って生じる労働者の配置転換や労働条件の変更は、必ずしも使用者が一方的に決定し得ることではない。したがって、労働者の配置転換や労働条件の変更を伴う工場等の移転を行うに当たっては、使用者は、事前に労働者や労働組合と協議し、それらの同意を得たうえで、これを実行することが望しい。特に申請人は、被申請人らとの間で、工場移転を行う場合には事前に協議する旨合意しているのであるから、申請人が本件工場移転計画を決定するに当たって事前に被申請人らと協議を行わなかったことは、著しく妥当性を欠くといわざるを得ない(なお、申請人は、右合意は群馬県への工場移転のみについてのものである旨主張するが、その文言によると、そのような限定的なものと解することはできない。)。

しかし、右のとおり工場移転自体は使用者が独自に決定し得る事項であり、その用地の取得や移転に伴って生ずる遊休資産の処分などは迅速に処理すべき事項であるから、使用者としては、これらを独断専行せざるを得ない場合もある。また、労働者や労働組合においても、法的には原則として使用者の行う工事移転作業等を実力で阻止する権限はなく、これに伴って生ずる配置転換や労働条件変更の効力を争うほかないのである。そして、一旦工場移転計画が実行に移された場合には、途中で妨害行為を受けると、使用者における生産計画及び資産の取得や処分の計画に支障をきたし、使用者に著しい損害を生じさせることになりかねない。そのような事態が予想される場合、使用者は、その妨害排除の仮処分を申請し得るのである。

これを本件についてみると、本件申請時に、申請人は、既に六郷工場を賃借しており、これに本社工場を移転し、本社工場を売却して諸経費に充てようとしていたのであるから、この段階で移転作業を妨害された場合には、現実に使用しない六郷工場の賃料を支払わねばならない一方、本社工場も売却できず、諸経費に充てるべき売却代金も取得できないし、場合によっては本社工場の買主から違約金等を請求されることにもなりかねない。したがって、本件申請は、その申請時には理由があったといえる。

ところが、前記のとおり、本件申請後、本社工場については移転と売却が完了し、それに伴って申請人は本件申請の一部を取下げている。そうすると、申請人が申請時に保全の必要性として主張した三点、すなわち、製品在庫のなくなるおそれ、六郷工場の賃貸借契約を解除されるおそれ、及び本社工場の売却代金を入手できないおそれのうち、後二者は現段階では存在しないといえる。そして、製品在庫のなくなるおそれについても、本社工場の移転が完了した以上、少なくとも従前の生産能力は確保できているのであるから、このおそれも消滅したと認められる。勿論、現段階においても、大崎工場及び上池台工場から一部の機械を六郷工場に移し、同工場において製品の一貫生産を行う必要性が残っているが、そのような一貫生産が早急に実現しない場合に、申請人が著しい損害を受けることについては、具体的な疎明がない。したがって、本社工場の移転が完了したことにより、本件申請における保全の必要性はほとんど消滅したと考えられる。

しかも、被申請人らは、現段階においては、工場移転作業等を実力では妨害しないとの態度を表明するに至っている。

以上によると、本件申請については、少なくとも現段階においては、保全の必要性がないと解するのが相当である。

三  よって、申請人の本件申請は失当であるから却下し、本件手続費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 藤山雅行)

物件目録

(一)(本社工場)

東京都品川区東中延一丁目三五九番地一

家屋番号 三五九番一の一

鉄骨造陸屋根一〇階建

床面積

一階ないし六階

各一二一・七六平方メートル

七階および八階

各一一七・七二平方メートル

九階および一〇階

各二三・四七平方メートル

(二)(大崎工場)

東京都品川区大崎五丁目三―四

鉄筋コンクリート造陸屋根葺三階建 一棟

床面積

一階 一六一・一七平方メートル

二階 一五八・二九平方メートル

三階 八九・二八平方メートル

(三)(上池台工場)

東京都大田区上池台五丁目三四番一〇号

鉄骨造スレート葺二階建 一棟

床面積 二四四・六二平方メートル

(四)(六郷工場)

東京都大田区西六郷四丁目五〇番三

鉄骨造陸屋根葺三階建 一棟

延面積 五五三・五〇平方メートル

(五)(西五反田ビル)

東京都品川区西五反田六丁目二五番一一号

鉄筋コンクリート造一〇階建 一棟のうち

二階 一九八平方メートル

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